歯列矯正で不調となった方は再矯正では治らない?

当院に歯列矯正後の不調で来られる方の多くは顎のずれや嚙み合わせの不具合に悩まれていて、同時に歯列矯正で歯並びを整えたにも関わらず不調がなぜ起きているのかを知りたい方々です。

 

歯列矯正後に不調の出る人と出ない人の違いは、歯列矯正で得られた新しい噛み合わせに由来するものではなく、歯列矯正で得られる噛み合わせでは順応できない体質だと言う事です。

 

当院ではこの様な体質の方を咬合過敏症と呼んでいます。

 

では、歯列矯正で得られる噛み合わせはどのような状態か説明します。

その前に、まず理想的な歯の噛み合わせである咬合理論について知る必要があります。

歯の噛み合わせは単純に上下が当たっていれば良いわけではなく、精密な歯車がかみ合うかの如くに接触する場所も数にもルールがあります。

 

上下の歯の接触状態としては赤点同士が接触して1本の前歯で1~2ヶ所、奥歯で2~3か所は最低必要です。

歯列全体では下図の通りです。

 

 

個々の歯に付いても接触する場所と数にルールがあります。

6歳臼歯と言われる第一大臼歯の画像で説明します。

 

上下同色の点同士が接触することが必要で、最も重要な接触点は赤、青、黄色のそれぞれ3点です。(理想は赤青黄ピンク全ての上下の点同士が接触)

 

下の画像は上から見た上下第一大臼歯の接触点です。(左側は下の歯で右側は上の歯です)

 

しっかりと上下が接触点で接触していれば歯牙模型は手を放した状態でもバランスを保って噛んでいます。

 

口の中で上下の接触点を合致させる調整が歯科医師ができるとしても、調整にはかなりの時間がかかるため、それが出来るのは治療時間とそれに見合う金額を取っている歯科医師だけです。

 

また、精密な噛み合わせの被せ物や詰め物を作り歯に接着する治療が補綴治療(咬合治療)であり、歯科技工士の仕事になります。(歯科技工士もすべてがこのような精密な補綴物を製作できるわけではありませんし、製作できるとしても現実問題として時間と見合う利益がないとやれません。)

 

咬合過敏症の方は、上記の様な精密な噛み合わせを正しい顎の位置(中心位)で確立できれば、顎は安定して不調が改善します。

 

ですが歯列矯正は歯の形態を変えられないので咬合理論に基づいて噛み合わせを設計する事が出来ないので接触は1本の歯で1~2か所が限度です。

 

従って、不安定な接触状態となり咬合過敏症の人は咀嚼筋の緊張が継続して不調が現れます。

咬合過敏症でなければ、歯列矯正の不完全な精度の噛み合わせであってもそれほど酷い不調にはなりません。

 

 

それでは、実際に歯列矯正後に不調が出た方の噛み合わせの模型を見てみます。

A子さん:症状は首や肩こりと顎のずれや口元の歪みに悩まれてご来院になられました。

 

理想的な噛み合わせの模型(左)とA子さん(右)を比較します。

奥歯は理想的な噛み合わせであれば4~6か所の接触ですが、抜歯していて歯の数が不足していながら赤丸印の2か所しか噛んでいません。

 

反対側も同様に赤丸印の3か所しか噛んでいません。

 

とても不安定な噛み合わせであることがわかります。

 

次に後頭部方向から歯型を見てみます。

白色の模型は見本となる理想的な噛み合わせの模型で、黄色の模型はA子さんの模型です。

赤丸で囲んだ部分を比較してください。

 

理想的な噛み合わせは上下の歯が密着して接触面積が大きいですが、A子さんの模型は上下の歯がそれぞれ1か所しか当たっておらず、接触面積も小さくて噛み合わせがとても不安定な状態になっています。

これが、平均的な歯列矯正の噛み合わせの完成度です。

 

 

次は歯列矯正治療後に顎関節症になったB子さんの例を見てみます。

下の写真は一般歯科を受診していた時に歯並びを整えた方が良いと提案されて、矯正専門医を紹介されて非抜歯矯正を受けた治療後の歯型です。

 

見た目は満足されていましたが、矯正治療途中から歯ぎしりが酷くなり始めて治療終了後には顎関節症を発症したとのことです。

 

上の歯列のアーチ(左側の模型)が歪なラインになっています。

 

下顎が正中から向かって左に多少ずれています。

 

噛み合わせの状態を調べると右側最後方の奥歯がすれ違って噛んでいます。

赤丸印の歯が本来の噛み方ではなく噛み合うべき面とはすれ違っています。

 

歯牙模型で説明すると本来の理想の状態は上下の歯と歯の山と谷が噛み込ます。

 

 

B子さんの大臼歯は上の歯が頬側に飛び出して下顎の歯の噛む面とすれ違っています。

 

この様に不正な歯軸で噛み合っている歯があると顎の動きを妨げるので、高い確率で顎関節症を発症してしまいます。

その為、B子さんは矯正中から顎関節部にクリックが発生していて、歯ぎしりが強くなり治療後には顎関節症が発症しています。

 

この状態は歯列矯正治療で噛み合わせがすれ違ったわけではなく、元々この状態であった噛み合わせを治すことなく前歯の歯並びを重視して治療を終えた結果なのです。

 

この患者様が受診された歯科医院は費用がお手頃で治療期間が短い事で評判の矯正専門医であり日本矯正歯科学会臨床指導医でもあります。

 

B子さんは顎関節症が発症しました、一方でこの歯科医院を受診して歯並びが綺麗になり顎関節症も改善した方がいるのも事実です。

 

このように、歯列矯正で整えたかみ合わせがその方にとって良いか悪いかは治療が終わるまで分かりませんが、歯列矯正での噛み合わせの治療は精度に限界ありますので、噛み合わせ不良によって不調が生じた方は再矯正ではなく補綴治療で噛み合わせを整えなければ改善は困難なのです。

そして、補綴治療(咬合治療)を受診しないのであれば、体質改善をして咬合過敏症から抜け出す事です。